母親が家を出た翌日、家に来たのは鍵屋さん。
子供なりに、どうして鍵屋さんが来たのかは分かった。
保育園に通う妹、「鍵を変えたら、ママはお家に帰って来れないじゃない」
泣きじゃくる妹に、鍵屋さんは困惑していた。
玄関ドアの鍵が変わると、私は鍵が付いた紐を首に掛けるようになった。
友達、「お前もカギっ子になったんだな」
私、「うん」
私の友達にはカギっ子が多く、どの家が両親共働きなのかは容易に分かった。
友達、「お前の母ちゃんは、どこで働いているの?」
私、「働いてないよ」
友達、「母ちゃんが働いてないのに、どうしてカギっ子なの?」
両親共働きは珍しくなくても、子供を置き去りにする母親は珍しかった。
私、「ただいま」
「おかえり」と言ってくれたのは、父親の野太い声。
「オヤツを用意してあるよ」と言われても、父親の用意したオヤツは食べる気がしない。
父親、「父さんは仕事に行くから、時間になったら夕ご飯を食べるんだぞ」
私、「うん」
夕ご飯の時間になると、ガチャとドアの開く音がした。
幼い妹、「ママだ」
そんなわけはないと思いつつも、幼い妹に付いて行くと
幼い妹、「やっぱりママだ」
母親、「元気にしてた?」
妹、「うん」
母親、「ママがいなくて寂しくなかった?」
妹、「寂しかった」
私、「どうやって家に入ったの?カギは掛ってあったでしょ?」
母親、「ちゃんとカギを開けて入って来たわよ」
母親が開けて入って来たのは、台所の勝手口。
後に両親は別れたが、夕ご飯の時間になると、勝手口から母親が入って来て子供達に御飯を作ってくれる生活は、妹が高校生になった今も続いている。