寝るのにベッドに入ると、外でタクシーが停まった、おそらく飲んで遅くなった父親が帰って来たのだろう。
タクシーのドアが「バタン」と閉まったということは、父親はタクシーを降りて家の敷地に入る。
案の定、庭の防犯ライトが光り、私の部屋のカーテンは明るくなった。
「ガチャン」と鳴ったのは、父親が門を閉めたから。
昼間なら、庭で飼っている犬が吠えるのだが、父親が敷地の中に入っても吠えないのは、犬は寝ているのだろう。
何のための番犬なんだ!
門から玄関ドアまで10メートルほど。
玄関ドアを開けると、音で知らせてくれるようになっているのだが、父親が敷地の中に入って1分が経っても、玄関ドアを開いたことを知らせる音がしない。
寝ながら私は思った、「また、家の鍵を失くしたの?」と。
家の廊下をドタバタ歩くのは、父親と同い年の母親。
母親、「貴方なの?」
父親、「うん」
母親、「また、失くしたの?」
父親、「うん」
母親、「犬小屋で寝なさい」
母親がそう言うのも無理はない、なぜなら、父親が家の鍵を失くしたのは1度や2度ではないから。
母親の部屋のドアが「バタン」と閉まったのは、母親の機嫌が悪いから。
気になって玄関を見に行くと、玄関ドアの鍵は掛かっていた。
仕方がないため、私が玄関ドアの鍵を開けてあげた。
父親、「ごめんね、寝てたでしょ」
私、「・・・」
私が返事をしなかったのは、父親のこのセリフは過去に何度も聞いているから。
翌日、家の玄関ドアの鍵が、指紋認証で開けられる最新のものに変わった。
私、「指紋認証は幾らしたの?」
母親、「高かったわよ」
私、「パパが支払うの?」
母親、「パパが支払えると思う?」
母親がそう言うのは、父親は家の鍵と一緒にサイフも失くしていたから。