無反応

無反応

私の祖父は、入退院を繰り返している。
病院まで祖父を迎えに行くのは、孫の私。
タクシーが家に着くと、
祖父、「やっぱり家が良いな」
私がタクシー料金を支払っていると、祖父は一人で門を開けた。
祖父、「???」
祖父が不思議がるのは無理もない、家の鍵が変わったからだ。
私、「お爺ちゃん、家の鍵が変わったからね」
祖父、「アイツ、また、鍵を失くしたのか?」
祖父が言うアイツとは私の父親のこと、祖父にとっては自分の子供になる。
私、「パパ(父親のこと)は、お酒に酔うとモノを置いて来ちゃうから、鍵の要らない鍵に変えたの」
祖父、「???(鍵の要らない鍵)???」
私、「今度の鍵は指紋で開くのよ。やってあげるから見てて」
指紋認証は指でタッチするだけ。
私、「開いたわよ」
祖父、「そんなんで開いたのか?」
私、「簡単でしょ、お爺ちゃんもやってみる?」
一旦、玄関ドアをロックし、それから祖父が指紋認証をしてみたのだが、反応しない。
私、「オカシイわね。お爺ちゃん、もう一度やってみて」
祖父、「ここを押すんだよな?」
私、「押さなくても良いのよ、指は乗せるだけで良いの」
祖父、「開かないじゃないか!」
私、「オカシイわね???」
祖父は、私が貸してあげたスマホも指で強く押すが、反応しない。
祖父、「俺、生きてるよな?」
私、「生きてるわよ、変なこと言わないで」
祖父が家に帰って来たのは仮退院。ドクターからは散歩をさせるように言われているため、祖父を連れて近くのコンビニへ行った。
祖父、「・・・」
私、「・・・」
私達が黙ってしまったのは、祖父が近付いてもコンビニの自動ドアが開かないから。
祖父、「「俺、生きてるよな?」
私、「たぶん」

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